看護師あんこ日記 : episode24
夜勤明けのボロボロ感がひど過ぎる
土曜日の午前9時15分。
怒涛の夜勤を終え、私は病院の自動ドアからヨロヨロと外へ這い出した。
初夏の爽やかな朝の空気が、徹夜明けのガサガサの肌にしみる。
今の私の状態をスペック風に説明するなら、こんな感じだ。
髪型: 結び跡がガッツリついた、ボサボサのひっつめ髪。
肌: ファンデーションが皮脂と混ざり合って、もはや地肌と同化(というか崩壊)。
目: 充血し、まぶたの重さは片目3キロ(体感)。
服装: とりあえず着替えてきただけの、オシャレのかけらもないTシャツとチノパン。
「あー、終わった……。今日の夜勤もマジで修羅場だったな……」
深夜に急変した患者さんの対応に追われ、朝の検温と点滴更新をマッハでこなし、終わらない申し送りを済ませて、今の私は完全にエネルギー残量0%のゾンビ状態。頭の中では「早く帰って布団にダイブしたい」という本能の欲求だけがリフレートしていた。
重い足取りで最寄り駅へと向かい、改札を抜けてホームへと降りる。
そこまでの道すがら、私はある「圧倒的な違和感」に気がついてしまった。
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眩しすぎる「土曜日の朝」の住人たち
駅のホームは、いつもと違ってものすごく混雑していた。
だけど、平日の朝のような「どんよりとした満員電車の戦闘モード」では決してない。そこにいるのは、絵に描いたような「楽しい週末」をこれから始める予定の人々だった。
お揃いのリュックを背負ってワクワクした顔で遠足の準備をしている親子。
バッチリ髪を巻き、流行りのシアーシャツを羽織って、これからデートに向かうのだろう、待ち合わせのスマホを見つめてはにかむ女の子。
アウトドアブランドの服に身を包み、これから山登りかフェスにでも行くような楽しげな若者のグループ。
みんな一様に、キラキラとしたオーラを放ち、これから始まる土曜日を全力で楽しもうとしている。
一方、そのすぐ隣にポツンと立っている私はといえば、目が完全に死んでいるアラサーのナース。バッグの中には、昨日病棟でポケットに突っ込んだまま持って帰ってきてしまった、クシャクシャのノン sterile(未滅菌)の手袋が1枚、悲しく眠っている。
電車が滑り込んできて、ドアが開く。
車内から降りてくるのも、これから街へ繰り出すオシャレな人々。そこに、ゾンビのような私が逆流するようにして乗り込んでいく。
吊り革に捕まりながら、窓ガラスに映る自分の「くすんだ顔」と、シートに座って楽しそうに旅行のガイドブックを広げている同世代の女の子の「ツヤツヤの笑顔」が視界に並んだ瞬間、胸の奥がツンと痛んだ。
「……眩しいなぁ」
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私はいつまで、この「ズレ」を繰り返すんだろう
新人の頃は、平日に休みがあることがむしろ嬉しかった。
「平日のディズニーは空いてて最高!」「土日の混雑に巻き込まれなくてラッキー!」なんて、シフト制のメリットを最大限に楽しんでいた時期もあった。
だけど、30歳になった今、その気持ちに少しずつ変化が起きている。
世間が「今週も1週間お疲れ様!」と華やかな金曜日の夜を楽しんでいるとき、私はナースステーションで夜間の点滴を詰めている。
世間が「最高の週末だね!」と土曜日の太陽を浴びているとき、私は遮光カーテンをこれでもかと閉め切った暗い部屋で、泥のように眠って1日を潰している。
そして、世間が「あ〜、明日からまた仕事かぁ」と憂鬱になる日曜日の夜、私は「よっしゃ、明日は平日休みだ!」と1人、ズレたタイミングでテンションを上げている。
この、世間との決定的なタイムラグ。
これまでは「看護師の仕事だから仕方ない」と割り切ってきたけれど、ふとした瞬間に、ものすごい『寂しさ』と『孤独感』が、津波のように押し寄せてくるようになっていた。
友達と予定を合わせるのも一苦労だし、世間の季節のイベントや、街の賑やかな空気感から、自分だけがポツンと蚊帳の外に置かれているような、そんな閉塞感。
「私、いつまでこの、世界とのズレを繰り返しながら生きていくんだろうな……」
ゴトゴトと揺れる電車の窓の外、流れていく綺麗な青空を眺めながら、私の心には小さな、だけど消えない寂しさの影が広がっていった。
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30歳、世界のタイムラインと重なり合いたい
アパートに帰り着き、鍵を開ける。
静まり返った部屋。時計の針は10時を回ったところだ。
今から寝れば、目が覚めるのはきっと夕方の16時すぎ。私の土曜日は、お日様を見ることすらなく、ほとんど一瞬で終わってしまう。
ベッドに倒れ込みながら、私は昨日初めて登録した「転職サイト(第23話)」の画面を、スマホでそっと開いてみた。
そこにある『土日祝休み』という、たった4文字の言葉。
これまでは「自分には関係のない、遠い世界の言葉」だと思っていたけれど、今日の夜勤明けのすれ違いを経て、その4文字が、今の私にはどんな高級なジュエリーよりも価値のある、輝かしいものに見えた。
もし、カレンダー通りの働き方ができたら。
私もあのホームにいた女の子たちみたいに、金曜日の夜に「今週もお疲れ様!」って笑って、土曜日の朝にワクワクしながらオシャレをして、太陽の光を浴びて街へ出かけることができる。
世界のタイムラインと、自分の人生の時間を、ぴったりと重ね合わせて生きることができる。
「……うん、やっぱりそういう生き方、諦めたくないな」
私はスマホを枕元に置き、そっと目を閉じた。
すぐに退職するわけでも、明日からガラリと生活が変わるわけでもない。
だけど、「いつかは私も、あの土曜日の太陽の下を笑って歩く側に行くんだ」という小さな目標ができただけで、徹夜明けの重たい体と心が、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
私のカレンダーに、新しい風を吹かせるためのヒントは、もう見えている。
まずは疲れた細胞たちを癒すために、今日だけは1日、泥のようにゆっくり眠ることにしよう。
(episode 25へ続く)
💙あんこからのひとこと
episode24を覗いていただき、ありがとうございます!
シフト制の職業の皆さん、夜勤職の皆さん。土曜日の朝、夜勤明けのボロボロの状態で、これから遊びに行くキラキラした人たちとすれ違ったときのあの「私、何やってるんだろう…」っていう切ない引き算、経験ありませんか?
「めちゃくちゃ分かる!」と共感してくれた方は、ぜひ星♡マークやコメントで教えてくださいね。お互い、まずはたくさん労ってあげましょう〜!

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