看護師あんこ日記 episode30
同じ病棟、同じ夜勤。でも私の気持ちは変わっていた
「お疲れ様でしたー!」
日曜日の夜勤入り。
いつものように白衣に着替え、髪をきっちりひっつめ、夜間の点滴を準備する。
病棟の空気は相変わらず張り詰めているし、ナースコールは容赦なく鳴り響いている。
だけど、今の私は、数カ月前の自分とは決定的に違っていた。
インシデントの書類作りに追われても、ドクターに少し理不尽な態度をとられても、胸の奥が不思議なほど、凪のように静かで穏やかなのだ。
「あ、私、もうこの場所に心を支配されていないんだ」
深夜2時。
仮眠室の硬いベッドに横たわりながら、私は天井を見つめてふと思った。
これまでは、この一般病院の5階病棟こそが、私の世界のすべてだった。
ここで上手く立ち回れない自分はダメなナースだと思い込み、職場の「当たり前」という鎖に、自分から絡まりにいっていた。
でも、外の世界を少しずつ知った。
病棟以外の働き方があると知った。
転職サイトを開いてみた。
患者さんから「無理しないでね」と言われた。
仕事以外の自分を大切にすることも覚えた。
そして、同期のミサトと本音を分かち合った。
その一つひとつが、私の心にシンプルな答えを教えてくれた。
「ここにいなくても、私は私だ」
白衣を脱いだ私にも、ちゃんと価値がある。
急性期病棟を離れたとしても、8年間で身につけた看護の経験まで消えてなくなるわけじゃない。
私は私のままで、大好きな看護のスキルを活かしながら、もっと自分らしく生きていい。
そのことが、ようやく胸の奥にストンと落ちた。
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「看護師はこの職場しかない」という思い込みから抜け出した
翌朝。
夜勤明けのルーティンを終えて、アパートに帰り着く。
玄関を開けると、以前、靴が履けなくなって涙が止まらなかった朝と同じ、見慣れた景色が広がっていた。
でも、今の私の足は、もうあの時のようにすくんでいない。
私はバッグから愛用している手帳を取り出し、デスクの上にパタンと広げた。
ページをめくり、来月のマンスリーカレンダーを見る。
そこには、まだ病院のシフトが出ていないため、見事なまでに真っ白な余白が広がっている。
これまでの私なら、
「早くシフトが出ないと予定が立てられない」
「また推しのライブも賭けになる」
と、ため息をついていただろう。
でも今日は、その真っ白なカレンダーが違って見えた。
「この余白は、これから私が自分の好きな色で描いていける未来なんだ」
すぐに明日、退職届を出すわけじゃない。
来月から急に夜勤のない生活になるわけでもない。
だけど、心の中ではもう、
「この職場に残るしかない」
から、
「私は自分で次を選べる」
へ変わっていた。
この違いは、ものすごく大きかった。
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転職サイトを見るだけでも「逃げ道」ではなく「選択肢」になった
スマホには、これまで見つけた求人がいくつもブックマークされている。
夜勤なし。
日勤のみ。
土日祝休み。
残業少なめ。
クリニック。
健診センター。
訪問看護。
企業の健康管理室。
まだ、どこへ行くかは決めていない。
そもそも、本当に転職するタイミングだって、これから考えていく。
でも、
「いつでも自分の意思で次のステージへ進める」
と思えるだけで、目の前の景色は驚くほど変わった。
転職サイトは、もう「逃げ道」じゃない。
私にとっては、
「自分の人生には選択肢がある」
と教えてくれる、お守りのような存在になっていた。
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30歳からでも、看護師の働き方は選び直せる
私はお気に入りの青いペンを手に取った。
まだシフトの決まっていない、来月のある週末。
その真っ白なマスに、小さな、だけどはっきりとした文字で書き込む。
『ミサトと、ミントグリーンのワンピースを着て、オシャレなカフェに行く!』
文字を見つめているだけで、胸の奥がキュンと高鳴る。
20代をがむしゃらに走った8年間。
夜勤。
残業。
人間関係。
後輩指導。
コロナ禍。
泣いた日も、悔しかった日も、たくさんあった。
でも、そのすべてが無駄だったわけじゃない。
そこで身につけた経験も、判断力も、患者さんに寄り添う力も、今の私を支えてくれている。
だから、全部捨ててゼロからやり直す必要なんてない。
今までの経験を持ったまま、働き方だけを選び直せばいい。
30歳は、遅いどころか、自分が何を大切にしたいかを考えながら、次を選べる年齢なのかもしれない。
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「仕事のための人生」から「自分のために働く人生」へ
これからは、誰かの都合に合わせるだけのカレンダーじゃない。
朝、太陽の光で目を覚ます。
夜は自分のベッドで眠る。
友達と土曜日に会う。
推しのライブへ行く。
好きな服を着て、行きたい場所へ行く。
そして、仕事の日には、看護師としてちゃんと患者さんと向き合う。
そんな生活を選んだっていい。
看護師として頑張ることと、自分の人生を大切にすることは、どちらか一つを選ぶものじゃない。
両方を大切にできる働き方を探していい。
窓を開けると、初夏の新しい風が、カーテンをふわりと揺らして部屋の中へ吹き込んできた。
その風を浴びながら、私は大きく息を吸った。
「よし。まずは今日の夜勤明けのご褒美として、とびきり美味しいショートケーキでも買いに行こう!」
手帳をそっと閉じる。
明日から何もかもが変わるわけじゃない。
でも、私はもう知っている。
今いる場所が、人生のすべてじゃない。
看護師としての働き方も。
休日の過ごし方も。
これからの30代も。
自分で選んでいい。
30歳、看護師あんこの新しいカレンダーは、今この瞬間から始まる。
(「看護師あんこ日記」 完)
💙あんこからのひとこと💙
「看護師あんこ日記」、episode 30までお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございました!
一般病院の狭い常識の中で、心も体もすり減らしながら「私の人生、これでいいのかな…」と悩んでいた日々。だけど、一歩外の世界に目を向け、自分の大切な時間や価値を仕分けし始めたことで、私は「自分の人生の主導権」を、もう一度自分の手に取り戻すことができました。
今、同じようにモヤモヤして、限界を感じている皆さん。
どうか忘れないでください。あなたのいる場所が、世界のすべてではありません。白衣を着ていても、着ていなくても、あなたはあなたであり、その未来は無限に広くて自由です!
「私も前を向く勇気をもらったよ!」と思ってくださった方は、ぜひ♡マークや温かいコメントを残していっていただけたら、泣くほど嬉しいです。
皆さんのカレンダーにも、自分らしく輝ける素敵な新しい風が吹きますように。今まで本当にありがとうございました!またどこかでお会いしましょう〜!

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