アナザーストーリーver.19|3交替の夜勤と睡眠リズムの乱れに悩んだ私が見つけた「健康」と「自分の時間」を取り戻す、新しい選択肢へ

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小野 健介・7年目(療養型病院)


前年の秋。

北千住駅の東口から溢れ出す通勤客の波に逆らうように歩きながら、私は少しひんやりとした朝の空気を深く吸い込んだ。

荒川の方角から吹き抜けてくる乾いた風が、白衣の入ったトートバッグを揺らしていく。

街路樹は黄色や赤に色づき始め、歩道には落ち葉が点々と広がっていた。

看護師として7年目。

病棟では中堅として頼られることも増え、

「小野くんなら大丈夫」

と言われる場面も多くなっていた。

けれど、毎朝ナースステーションの自動ドアを開ける瞬間の、胃がキュッと縮むような感覚だけは、何年経っても変わらなかった。

ロッカー室でナース服に袖を通しながら、深く、大きく息を吐く。

それが、いつの間にか私の毎朝の習慣になっていた。


3交替勤務で、昼と夜の感覚が分からなくなっていった

私の心と身体をすり減らしていたのは、急性期病棟の忙しさや人間関係だけではなかった。

一番つらかったのは、新人の頃から続いてきた不規則な3交替勤務だった。

日勤。

準夜勤。

深夜勤。

勤務する時間帯が変わるたび、眠る時間も食事をする時間も変わる。

7年目になり、夜勤でも頼られる立場になるにつれて、

「小野くんなら大丈夫だよね」

と勤務を任されることも増えていた。

「小野くん、今月ちょっと夜勤が多くなっちゃってごめんね。調整が難しくて……」

師長から渡された勤務表を見ながら、

「大丈夫です」

と笑う。

いつも、その繰り返しだった。

けれど、身体は少しずつついていかなくなっていた。

夜になっても眠れない。

逆に昼間になると強烈な眠気が襲ってくる。

せっかくの休日も、気づけば午後までベッドの中にいる。

夕方になってようやく起きても、

「また一日終わっちゃったな」

と思うだけだった。

秋晴れの休日。

窓の外では、気持ちよさそうに街を歩く人たちが見える。

それなのに私は、カーテンを閉めた部屋で横になっている。

「俺、この働き方を、あと何年続けられるんだろう……」

鏡に映った疲れ切った自分の顔を見た瞬間、胸の奥に強い不安が込み上げてきた。

看護師として働くことは好きだった。

急性期で経験を積んできたことにも誇りがある。

でも、自分の生活そのものが崩れてしまったら、働き続けることさえできなくなる。

その当たり前のことに、7年目になってようやく気づいた。


「7年目で辞めていい?」頼られる立場だからこその罪悪感

「違う働き方を探してみよう」

そう思ってからも、すぐには動けなかった。

何より私を縛ったのは、7年目という立場だった。

夜勤では後輩から相談される。

新人や若手のフォローを頼まれる。

リーダー業務を担当することも増えていた。

人手不足の病棟で、自分が抜ければ誰かの夜勤が増えるかもしれない。

そう考えると、

「辞めたい」

という言葉を口にすることさえ怖かった。

それに、

「男なんだから体力あるでしょ」

「7年目なのに夜勤がつらいの?」

そんなふうに思われるのではないかという不安まで、自分の中で勝手に膨らんでいった。

同じ病棟には、私より1年先輩の8年目ナース、あんこ先輩がいた。

ある夜勤明け。

「健介くん、最近ずっと疲れてない? ちゃんと休めてる?」

そう声をかけられた。

「大丈夫ですよ。ちょっと夜勤が続いただけです」

私は笑って答えた。

でも、あんこ先輩は少し心配そうな顔をしていた。

「そっか。でも、無理しすぎないでね」

その言葉が、妙に胸に残った。


「急性期を離れたら技術が落ちる?」消えなかったキャリアへの不安

もう一つ怖かったのが、急性期を離れることだった。

7年間、急性期病棟で働いてきた。

状態変化の観察。

点滴管理。

急変対応。

優先順位を判断しながら複数の患者さんを見ること。

そうやって身につけてきたものを手放すような気がした。

「慢性期や療養型へ移ったら、急性期で身につけた技術が衰れてしまうんじゃないか」

「もう一度急性期に戻りたいと思っても、戻れなくなるんじゃないか」

そんな不安が頭から離れなかった。

夜、ベッドに入るとスマートフォンを開いた。

「看護師 転職 7年目」

「看護師 夜勤 つらい」

「療養型病院 働き方」

「看護師 夜勤少ない」

検索履歴は、自分の迷いそのものだった。

求人画面を眺めるだけの日々が、二ヶ月以上続いた。

一般クリニック。

健診センター。

訪問看護。

慢性期病院。

療養型病院。

気になる求人を見つけても、「応募する」のボタンを押せない。

そしてまた画面を閉じる。

そんな夜を何度も繰り返した。


「夜勤から逃げたい」のではない。長く看護師を続けたかった

迷い続けるうちに、自分が本当に求めているものが少しずつ見えてきた。

私は、夜勤そのものが嫌いなわけではなかった。

看護師を辞めたいわけでもない。

ただ、自分の健康や生活を削り続けなければ維持できない働き方を、この先何十年も続けることに不安を感じていた。

「もっと長く看護師を続けるために、今の働き方を変える」

そう考えた瞬間、転職に対する見方が少し変わった。

夜勤の回数や勤務体制。

残業の状況。

休日。

患者さんとの関わり方。

給与だけではなく、自分が長く働き続けられる条件を一つずつ確認するようになった。

そんな中で目に留まったのが、北千住にある療養型病院だった。

長期療養する患者さんの生活を支えながら、急性期とは違う時間軸で看護をする。

勤務体制も、今までの3交替とは違っていた。

「ここなら、看護師を辞めずに働き方を変えられるかもしれない」

そう思った夜。

私は、二ヶ月以上押せなかった「応募する」のボタンを、ようやく押した。


転職から3ヶ月。療養型病院で働く私

転職して三ヶ月が経った頃。

私は、かつて同じ病棟で働き、私の様子をずっと気にかけてくれていた8年目ナースのあんこ先輩と、北千住駅近くの路地裏にある、古い建物を改装した落ち着いたカフェにいた。

秋の夕暮れ。

店の外では街路樹が赤や黄色に色づき、乾いた風が落ち葉をカサカサと転がしている。

少し傾いた夕日が、古い木製のテーブルの上を柔らかく照らしていた。

「健介くん、なんだか表情が穏やかになったね。前は会うたびに眠そうだったもん」

あんこ先輩が、温かいコーヒーのカップを両手で包みながら笑った。

「そうですか? でも今の職場でも結構大変ですよ。褥瘡のケアとか、患者さんのちょっとした状態変化とか。急性期とは違うところを見なきゃいけないので、まだ必死です」

私は少し気恥ずかしくなって笑った。


療養型にも大変さはある。それでも急性期とは違う

療養型病院へ転職したからといって、すべてが楽になったわけではない。

長期療養している患者さんの中には、自分で身体を動かすことが難しい人もいる。

褥瘡の予防。

体位変換。

栄養状態。

排泄。

呼吸状態。

日々の小さな変化を見逃さない観察力が必要だった。

患者さんの状態が急に変化することだってある。

先日も、ある患者さんの呼吸の変化に気づくのが遅れそうになり、先輩ナースから、

「いつもと違うところを、もっと意識して見てみよう」

と指摘された。

その日は、自分の観察不足に落ち込んだ。

患者さんを介助する場面も多く、身体的に楽な仕事というわけでもない。

ご家族との関係や、長期療養を支える中で難しい判断を求められることもある。

急性期とは違う種類の難しさが、確かにあった。


変わったのは「楽になったこと」ではなく、生活のリズムだった

「でも、前とは一つ、大きく違うんです」

私はあんこ先輩に言った。

「今の職場も夜勤はあります。でも、前みたいに日勤、準夜、深夜って生活の時間帯が次々変わる働き方ではなくなったんです」

もちろん、勤務先によって忙しい日はある。

残業する日もある。

夜勤中に患者さんの状態が変われば、慌ただしくなる。

それでも、以前より生活のリズムを作りやすくなった。

休みの日。

朝に起きる。

カーテンを開ける。

外へ出る。

昼間の街を歩く。

そんな当たり前のことを、以前よりできるようになった。

「この前、休みの日に荒川沿いを歩いたんですよ」

私は笑った。

「秋晴れで、空がすごく青くて。コスモスが咲いてて、ランニングしてる人がいて。それ見ながら、『俺、昼間に普通に外を歩いてるな』って思ったら、なんか嬉しくなって」

あんこ先輩も笑った。

「それ、すごく大事なことかもね」

「ですよね」

以前の私は、休日とは、次の勤務に備えて身体を休める日だと思っていた。

今は違う。

休日は、自分の人生を過ごす日でもある。

そんな当たり前のことを、少しずつ取り戻していた。


急性期で過ごした7年間は、療養型でも生きている

「転職活動中、本当に悩みました」

私は窓の外を見ながら話した。

「7年目で急性期を離れるなんて、今まで積み上げてきたものを捨てるみたいな気がしてたんです」

でも、実際に療養型病院で働いてみると違った。

患者さんの小さな変化に気づくこと。

急変の可能性を考えること。

優先順位をつけること。

医師やほかのスタッフに必要な情報を伝えること。

急性期で身につけた経験は、環境が変わっても自分の中に残っていた。

「急性期の7年間を捨てたんじゃなくて、その経験を持ったまま、違う場所に来ただけなんだって思えるようになりました」

私は少し笑った。

「劇的に人生が変わったわけじゃないし、今でも仕事で落ち込む日はあります。でも、前よりずっと呼吸がしやすい。自分の生活を守りながら、看護師を続けられるかもしれないって思えるようになったんです」

あんこ先輩はふわりと微笑み、静かにカップを置いた。

「そっか。健介くんが自分でたくさん考えて、その道を選び取ったんだもんね」

その短い言葉を聞いた瞬間、胸の奥に残っていた最後のトゲが、すっと抜けていくような気がした。

カフェを出ると、北千住の街は秋の夕暮れに包まれていた。

駅へ向かう人々の足元を、黄色い落ち葉が風に押されて転がっていく。

少し冷たくなった秋風が頬に触れた。

前年の秋。

同じ北千住の街を歩きながら、

「この働き方を、あと何年続けられるんだろう」

と考えていた。

そして今年の秋。

私はまた、この街を歩いている。

看護師を辞めたわけではない。

7年間積み重ねてきた経験を捨てたわけでもない。

ただ、これからも看護師を続けるために、自分が続けられる働き方を選び直した。

色づいた街路樹を見上げながら、私はゆっくり息を吸った。

秋の乾いた空気が、胸の奥まで気持ちよく入ってきた。


💙あんこからのあいさつ💙

今回のエピソード、読んでみてどうでしたか?

今の職場で迷いながらも、自分が大切にしたい働き方を真剣に考えてみる。その結果として、残る選択をしても新しい道を選んでも、あなたが自分で悩んで歩き出した道なら、きっと大丈夫。あなたの張り詰めた心が、少しでも軽くなりますよう。

あなたの未来を守る「お守り」です。

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