看護師あんこ日記 : episode26
患者さんの「ありがとう」で、看護師のやりがいを思い出した
「あんこさん、本当に今までお世話になりました。これ、大したもんじゃないけど……あ、いや、物をもらっちゃいけないのは分かってるんだけどね、これだけは受け取っておくれ」
木曜日の午後。
カサカサの手で私に小さな折り紙の鶴を握らせてくれたのは、今日めでたく退院を迎えた70代の患者、佐藤さんだった。
佐藤さんは、脳梗塞の急性期を脱して、うちの病棟に転院してきた患者さんだ。
最初は麻痺が残った左手が思うように動かせず、
「もうおしまいだ」
とひどく落ち込んで、食事も喉を通らない日々が続いていた。
私は日勤のたびに、佐藤さんのベッドサイドへ足を運んだ。
少しでも前を向いてもらえるように、彼が大好きな昔のプロ野球の話で盛り上がったり、リハビリスタッフと連携して「スプーンを持てるようになるための小さな目標」を一緒に立てたり。
できることを、少しずつ一緒に増やしてきた。
その佐藤さんが、今では自分の足でしっかりと立ち、満面の笑みを私に向けてくれている。
手のひらの中の青い折り紙の鶴を見つめていたら、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「佐藤さん、リハビリ本当によく頑張りましたね。お家に帰っても、無理せずマイペースに過ごしてくださいね」
「ありがとう、あんこさん。あんこさんがいつもニコニコ話を聞いてくれたから、ワシ、頑張れたんだよ」
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「看護師を辞めたい」わけじゃない。私はこの仕事が好きだった
佐藤さんがご家族に付き添われて、嬉しそうに病棟を去っていく後ろ姿を見送る。
その瞬間、私の心の中には、ここ最近ずっと抱えていた職場へのイライラや疲れを、少しだけ忘れさせてくれるような満たされた気持ちが広がっていた。
これだから、看護師の仕事は辞められない。
自分の行ったケアや声かけによって、目の前の患者さんが少しずつ元気を取り戻していく。
笑顔が増えていく。
そして、
「あなたに担当してもらえて良かった」
と言ってもらえる。
そんな瞬間には、確かにこの仕事でしか味わえない大きなやりがいがある。
病棟のシステムには疲れた。
理不尽な人間関係にも疲れた。
夜勤にも、残業にも、委員会にも疲れた。
でも、
「看護師」という仕事そのものを嫌いになったわけじゃない。
患者さんの命や生活に向き合い、その人が少しでも前を向けるように支える仕事に、私は今でも誇りを持っている。
8年間、がむしゃらに走ってきたキャリアは、決して無駄ではなかった。
私はちゃんと、誰かの力になれる看護師になれていたんだ。
私は折り紙の鶴を、お守りのように大切にしまった。
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患者さんに言われた「無理しないでね」が胸に刺さった
でも、佐藤さんが病院のエレベーターに乗り込む直前。
私にそっと耳打ちしてくれた最後の言葉が、頭から離れなかった。
「あんこさん、いつも一生懸命で嬉しいけどね、たまにものすごく疲れた顔をしてるから、ワシ、心配だったんだよ」
「ありがとうね。でも、あんこさんも無理しちゃダメだよ。自分のことも、大事にするんだよ」
佐藤さんには、私の「無理」が見えていたのだ。
笑顔の下で疲れていること。
ギリギリまで頑張っていること。
自分のことを後回しにしていること。
患者さんを支えているつもりだった私が、逆に患者さんから心配されてしまった。
その言葉を思い出すたびに、胸の奥が優しく、だけど鋭くズキリと痛んだ。
患者さんに良い看護を届け続けたいなら、まず私自身が元気でいなければいけない。
心にも身体にも余裕がない状態で、ずっと人に寄り添い続けることなんてできない。
いつか完全に燃え尽きてしまったら。
大好きだった看護の仕事そのものまで、嫌いになってしまうかもしれない。
「それは、絶対に嫌だ」
「私は、看護師をずっと好きでいたい」
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良い看護を続けるために、自分自身の健康も守りたい
夕方。
カルテの入力を終えて、ナースステーションを見渡す。
相変わらず、スタッフはバタバタと走り回っている。
ナースコールも鳴り止まない。
病棟の忙しさは、今日も何も変わっていない。
でも、私の心の中では、一つ大きな変化が起きていた。
これまで転職を考えるとき、頭に浮かんでいたのは、
「夜勤がつらい」
「残業が嫌だ」
「この病院から逃げたい」
という気持ちだった。
もちろん、それも本音だ。
でも、今日の佐藤さんとのやり取りで、もう一つ大切なことに気づいた。
私は看護師を辞めたいんじゃない。
看護師を、無理なく長く続けたいんだ。
そのために、働く場所を変えたい。
そう考えた瞬間、転職が「逃げ」ではなく、自分の大切な仕事を守るための選択に見えてきた。
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「看護師を続けるための転職」という選択肢
私の8年間の経験は、この急性期病棟だけでしか使えないものじゃない。
クリニック。
健診センター。
訪問看護。
企業の健康管理室。
ほかにも、看護師の経験を必要としてくれる場所はあるはずだ。
大切なのは、
「どこが一番大変か」
でも、
「どこが一番楽か」
でもない。
「私は、どこなら笑顔で長く看護師を続けられるのか」
ということなのかもしれない。
自分に余裕があれば、患者さんの話をもっと丁寧に聞ける。
自分が健康なら、長く働き続けられる。
休日にきちんと休めれば、仕事の日にはもっと良い状態で患者さんと向き合える。
自分を大切にすることは、看護を大切にすることにもつながっているのかもしれない。
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30代は「辞める転職」ではなく「続けるための転職」へ
帰り道。
夕暮れの風を浴びながら、私はスマホの転職サイトのお気に入りリストを開いた。
そこに並んでいる求人情報が、今までとは少し違って見えた。
ただの「逃げ道」じゃない。
私の看護師人生を、もっと長く、もっと自分らしく続けていくための、
「新しいステージの候補」
なのだ。
「よし、私の大切な資格の新しい活かし方を、もっと真剣に探してみよう」
30歳。
大好きな仕事を、この先もずっと好きでいるために。
私は、自分の心と身体を一番に守れる働き方を選ぶ。
患者さんのためにも。
そして、何より私自身のためにも。
手のひらの中で、佐藤さんからもらった青い折り鶴をそっと握る。
「ありがとう。でも、無理しないでね」
その言葉を、今度こそちゃんと受け止めながら。
(episode 27へ続く)
あんこからのひとこと
episode26を覗いていただき、ありがとうございます!
現役ナースの皆さん。日々の激務でボロボロな時に、患者さんや利用者さんからの温かい「ありがとう」の一言で、涙が出そうになるほど救われた経験ありませんか?
深く頷いてくれた方は、ぜひ♡マークやコメントを残していってくださいね。自分が一番輝ける健康的な場所を、一緒に見つけていきましょうね〜!

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