病院や施設を退職するとき、健康保険や年金と一緒に忘れてはいけないのが税金です。
特に注意したいのが「住民税」。
退職して給与がなくなったのに、しばらくして自治体から納付書が届き、
「えっ、仕事を辞めたのに、こんなに払うの?」
と驚くことがあります。
さらに、
「最後の給与から住民税がたくさん引かれている」
「転職先では住民税をどう払うの?」
「退職した年は確定申告が必要?」
「所得税は払いすぎていたら戻ってくる?」
など、退職後には税金に関する疑問が一気に増えてきます。
今回は、看護師が退職してから再就職するまでに知っておきたい住民税と所得税の仕組み・手続きを、順番に整理していきます。
退職後の税金で最初に覚えておきたいこと
まず、住民税と所得税では、税金が計算される仕組みが違います。
大まかにいうと、
| 税金 | 基本的な考え方 |
| 住民税 | 前年の所得をもとに翌年度に課税 |
| 所得税 | その年の所得に対して課税 |
この違いが、退職後の税金を分かりにくくしている大きな理由です。
特に住民税は、退職して現在の収入がなくなっても、前年に一定の所得があれば支払いが続くことがあります。
ここを最初に理解しておきましょう。
① 退職しても住民税はなくならない
会社員や看護師として働いていると、通常は毎月の給与から住民税が天引きされています。
これを特別徴収といいます。
給与明細を見ると、
「住民税 ○○円」
と記載されているはずです。
では、退職して給与がなくなれば、この住民税もなくなるのでしょうか。
原則として、そうではありません。
住民税は前年の所得をもとに計算され、原則として6月から翌年5月までの給与から徴収されます。
つまり、
「今働いているから払っている税金」ではなく、「前年に得た所得に対して今払っている税金」
というイメージです。
そのため、退職して収入が途絶えても、前年にしっかり働いて所得があれば、住民税の支払いは残ります。
② 退職時期によって住民税の支払い方が変わる
退職後の住民税で特に重要なのが、何月に退職したかです。
給与から住民税を特別徴収されていた人が退職すると、残っている住民税をどのように納めるかが変わります。
1月1日〜4月30日に退職した場合
原則として、5月までに給与から徴収される予定だった住民税の残額が、最後の給与や退職金などから一括徴収されます。
そのため、退職月の給与明細を見て、
「住民税がいつもよりずっと高い!」
と驚くことがあります。
税金そのものが急に増えたわけではなく、残っている分をまとめて支払っている可能性があります。
6月1日〜12月31日に退職した場合
退職後に残っている住民税については、原則として給与天引きから普通徴収へ切り替わります。
普通徴収とは、自分で住民税を納付する方法です。
後日、市区町村から納税通知書や納付書が送られてきて、それを使って納めることになります。
なお、本人が希望し、最後の給与や退職金などで支払える場合には、残額を一括徴収してもらえることもあります。
5月に退職した場合
住民税の特別徴収は通常6月から翌年5月までのサイクルなので、5月退職の場合は、その年度分については通常、5月給与までで徴収が終わります。
ただし、翌年度分の住民税は別です。
前年に所得があれば、6月から新しい年度の住民税が発生する可能性があります。
ここが大きな注意点です。
③ 退職した翌年に住民税が重く感じる理由
たとえば、看護師として前年に年収500万円程度あった人が退職し、その後しばらく無職になったとします。
現在の収入はゼロに近くても、住民税は前年の所得をもとに計算されます。
そのため、
現在の収入 → 少ない
にもかかわらず、
住民税 → 前年の所得をもとに請求
という状態になることがあります。
これが、
「仕事を辞めた後の住民税がきつい」
と感じやすい理由です。
退職を考えるときは、
「退職後は給料がなくなる」
だけではなく、
「前年の所得に対する住民税の支払いが後から来る」
ことまで考えて生活費を準備しておきましょう。
④ 普通徴収になったら自分で住民税を支払う
退職によって給与からの特別徴収ができなくなると、住民税が普通徴収へ切り替わることがあります。
その場合は、市区町村から送られてくる納税通知書に従って自分で納付します。
一般的な普通徴収では、年税額を複数回に分けて納めます。
ただし、自治体や退職した時期などによって、残っている納期や支払額は変わります。
「毎月給与から少しずつ引かれていたとき」と違い、1回あたりの支払額が大きく見えることがあります。
納付書が届いたら、
金額だけでなく、納期限も必ず確認
しましょう。
⑤ 再就職したら住民税はどうなる?
退職後すぐに別の病院や施設へ転職する場合、住民税の給与天引きを新しい勤務先へ引き継げる場合があります。
これを特別徴収の継続と考えると分かりやすいでしょう。
一方、
退職
↓
しばらく無職
↓
普通徴収に切り替わる
↓
その後再就職
という場合もあります。
この場合、新しい勤務先で普通徴収から特別徴収へ切り替えられることがあります。
手続きについては、新しい勤務先の給与担当者や住んでいる市区町村に確認してください。
ただし、すでに納期限が過ぎたものなどは切り替えられない場合があります。
⑥ 所得税は住民税とは仕組みが違う
次に所得税です。
住民税が前年の所得をもとに翌年度に課税されるのに対して、所得税はその年の所得に対して課税されます。
会社員の場合、毎月の給与から所得税が源泉徴収されています。
しかし、毎月天引きされている所得税は、その人の最終的な年間所得税額そのものではありません。
毎月の給与からいったん概算で徴収し、通常は勤務先が年末調整を行って年間の税額を精算します。
そのため、年の途中で退職すると問題が出てきます。
年末調整を受けないまま年が終わる可能性がある
からです。
⑦ 同じ年に再就職すれば、新しい勤務先で年末調整できることが多い
たとえば、
3月に病院Aを退職
↓
6月に病院Bへ転職
↓
12月時点で病院Bに勤務
というケースを考えてみましょう。
病院Aから退職時に源泉徴収票を受け取ります。
それを病院Bへ提出すれば、通常は病院Bが前職分の給与を含めて年末調整を行います。
つまり、
前職の源泉徴収票は非常に重要
です。
転職先から、
「前職の源泉徴収票を提出してください」
と言われたら、速やかに提出しましょう。
紛失しないよう保管しておくことも大切です。
⑧ 年内に再就職しなかったら確定申告を検討する
では、年の途中で退職して、その年の12月31日まで再就職しなかった場合はどうでしょう。
この場合、勤務先で年末調整を受けられないことがあります。
給与から源泉徴収されていた所得税が、最終的な所得税額より多ければ、確定申告によって税金が還付される可能性があります。
たとえば、
「6月に退職して、その後は年末まで働かなかった」
という場合、毎月の給与から徴収されていた所得税が年間ベースでは払いすぎになっていることがあります。
確定申告をすると、所得税の一部が戻ってくる可能性があります。
退職したら、
「確定申告なんて自営業の人がするもの」
と思わず、自分にも必要か確認してみましょう。
⑨ 源泉徴収票は必ず保管する
退職時に受け取る書類の中でも、税金関係で特に重要なのが給与所得の源泉徴収票です。
源泉徴収票には、
- その年に勤務先から支払われた給与
- 源泉徴収された所得税
- 社会保険料
- 各種控除に関する情報
などが記載されています。
この書類は、
転職先での年末調整
や
自分で行う確定申告
で必要になります。
「退職したから前の病院の書類は全部いらない」
と処分してしまわないよう注意してください。
⑩ 退職金にも税金はかかる?
長く病院に勤務していた看護師の場合、退職金を受け取ることもあるでしょう。
退職金は給与とは別に、原則として退職所得として扱われます。
退職所得には「退職所得控除」があり、勤続年数によって控除額が決まります。
一般的な退職所得控除は、
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年) |
という仕組みです。
一般的な退職金では、退職所得控除後の金額の2分の1を課税退職所得とする仕組みがあります。ただし、勤続年数や役員等に該当するかなどによって扱いが異なる場合があります。
退職金には長年働いた人への税負担を軽減する仕組みが設けられているため、
「退職金500万円なら、給与500万円と同じ税金がかかる」
わけではありません。
⑪ 「退職所得の受給に関する申告書」を忘れずに
退職金を受け取るときに重要なのが、勤務先へ提出する**「退職所得の受給に関する申告書」**です。
この申告書を適切に提出していれば、通常は勤務先が退職所得に対する税額を計算して源泉徴収します。
そのため、一般的には退職金について改めて確定申告をしなくても課税関係が完結します。
一方、申告書を提出していない場合には、退職金の支給額に対して一定率で所得税等が源泉徴収され、後で確定申告による精算が必要になることがあります。
退職金がある人は、
「退職所得の受給に関する申告書を提出したか」
を確認しておきましょう。
⑫ 失業給付に所得税はかかる?
退職後に雇用保険の基本手当、いわゆる失業給付を受ける人もいるでしょう。
ここで、
「失業給付も収入だから所得税がかかるの?」
と疑問に思うかもしれません。
雇用保険の失業等給付は、原則として非課税です。
つまり、基本手当を受け取ったからといって、その金額を通常の給与収入のように所得税の課税所得へ加えるわけではありません。
これは、退職後の資金計画を考えるうえで覚えておきたいポイントです。
⑬ 退職後は「健康保険・年金・税金」をセットで考える
退職後のお金を考えるとき、税金だけを見てはいけません。
会社員時代は、
給与
↓
健康保険
↓
厚生年金
↓
雇用保険
↓
所得税
↓
住民税
などが給与からまとめて差し引かれていました。
そのため、手続きを会社に任せている感覚だった人も多いでしょう。
ところが退職すると、
健康保険
年金
住民税
などを、自分で確認・手続き・支払いしなければならない期間が生じます。
たとえば、退職してしばらく再就職しない場合、
「国民健康保険または任意継続の保険料」
「国民年金保険料」
「前年所得をもとにした住民税」
が同時期に必要になることがあります。
失業給付があるから大丈夫、と考えるのではなく、退職後に毎月いくら出ていくのかまで計算しておくことが重要です。
⑭ 退職前に「手取り」ではなく退職後の資金繰りを計算しよう
転職を考えている看護師に特におすすめしたいのが、
退職後3〜6か月程度の資金繰り表を作ること
です。
たとえば、
現在の預貯金
+ 最後の給与
+ 退職金
+ 失業給付
+ その他の収入
から、
健康保険料
+ 年金保険料
+ 住民税
+ 家賃
+ 水道光熱費
+ 通信費
+ 食費
+ その他の生活費
を差し引いてみます。
すると、
「無収入でも何か月生活できるか」
が見えてきます。
これが分かっていれば、
「早く次の職場を決めなきゃ」
と焦って条件の合わない求人に飛びつくリスクを減らせます。
転職活動では、ある程度のお金の余裕が、職場を選ぶ余裕につながるのです。
⑮ 看護師の退職後・税金チェックリスト
退職するときは、次の項目を確認しておきましょう。
退職前
☐ 住民税が給与から特別徴収されているか確認
☐ 退職後の住民税の支払い方法を確認
☐ 源泉徴収票を受け取ることを確認
☐ 退職金の有無を確認
☐ 退職所得の受給に関する申告書を確認
☐ 退職後数か月分の生活資金を計算
退職後
☐ 市区町村から届く住民税の納付書を確認
☐ 納期限を確認
☐ 源泉徴収票を保管
☐ 年内に再就職したら転職先へ源泉徴収票を提出
☐ 年末調整を受けられなければ確定申告を確認
再就職後
☐ 新しい勤務先で住民税の特別徴収がどうなるか確認
☐ 前職の源泉徴収票を提出
☐ 年末調整の対象になっているか確認
退職後に「住民税の請求が来る」ことを忘れない
退職後のお金で特に覚えておいてほしいのが、
「現在の収入」と「住民税」は必ずしも連動しない
ということです。
看護師として夜勤をしていた前年に高い給与を得ていれば、その所得をもとに翌年度の住民税が計算されます。
退職して、
「今月の給与は0円」
になっても、
「住民税も0円」
になるとは限りません。
退職前にある程度の貯蓄を準備しておくことは、単に生活費を確保するためだけではありません。
健康保険・年金・住民税など、退職後も続く支払いに備えるため
でもあります。
まとめ|退職後の税金まで考えてから転職スケジュールを決めよう
看護師が退職するときは、新しい職場探しだけに目が向きがちです。
しかし、
「退職日を迎えたら終わり」
ではありません。
退職後には、健康保険、年金、雇用保険、住民税、所得税など、さまざまな手続きが待っています。
特に税金については、
住民税は前年の所得をもとに課税される
所得税はその年の所得に対して課税される
という違いを覚えておきましょう。
年の途中で退職して年内に再就職した場合は、前職の源泉徴収票を新しい勤務先へ提出し、年末調整を受けるのが一般的です。
一方、年内に再就職せず年末調整を受けていない場合には、確定申告によって払いすぎた所得税が戻ってくる可能性があります。
そして何より大切なのは、
退職後に必要なお金を事前に把握しておくこと。
お金の不安が大きくなると、
「早く就職しなければ」
という焦りにつながります。
せっかく転職するなら、焦って次の職場を決めるのではなく、給与・休日・夜勤・残業・通勤時間などをじっくり比較して、自分に合った職場を選びたいものです。
退職後の税金まで含めて準備することは、より良い転職先を選ぶための準備の一つなのです。
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