尊敬していた先輩が燃え尽きて退職。「このままでは私も危ない」と思った日

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看護師あんこ日記 episode16

尊敬していた10年目看護師から突然の退職報告

「あんこちゃん、私、今月で病院を辞めることになったの」

夜勤明けの静かな仮眠室で、10年目の先輩ナース・マキさんにそう告げられたとき、私は手に持っていた冷たい缶コーヒーを危うく床に落としそうになった。

「え……マキさんが、辞める……? 嘘ですよね?」

冗談であってほしいとマキさんの顔を覗き込んだけれど、いつもなら「冗談よ〜!」とケラケラ笑うはずの彼女は、どこか遠くを見つめたまま、小さく寂しそうな微笑みを浮かべているだけだった。

マキさんは、この5階病棟の「良心」そのもののような人だった。

仕事の正確さとスピードは誰もが頼りにするレベルだし、どんなに激務で病棟がピリピリしていても、患者さんや私たち後輩への優しい笑顔を絶やさない。

ドクターからの信頼も厚く、まさに私が、

「将来はマキさんみたいになりたい!」

と心の底から憧れていた、理想の看護師だった。

そんなマキさんが、ある日突然、糸が切れたように、

「心が折れました」

と、師長に退職届を出したのだ。

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「マキさんなら大丈夫」が積み重なった、看護師の燃え尽き

マキさんが辞める理由は、誰かとの大きな人間関係のトラブルでもなければ、目に見える重大なミスでもなかった。

いわゆる、**燃え尽き症候群(バーンアウト)**だった。

「私ね、もうこれ以上、誰かの命を背負いながら、このスピード感で走り続ける体力が残ってないみたい」

更衣室で2人きりになったとき、マキさんは白衣のボタンを外しながら、ぽつりと本音を漏らしてくれた。

「みんなから『マキさんなら大丈夫』って言われるたびにね、あぁ、今日も完璧な看護師でいなきゃって、自分で自分を追い詰めちゃってたの」

「家に帰るとね、泥のように疲れて、涙が止まらなくなっちゃう日があって……。あ、私、もう限界なんだなって気づいちゃったんだよね」

いつも前を走って、私たちを引っ張ってくれていたマキさんの口から出た「限界」という言葉。

その重みに、私は胸が締め付けられるようだった。

マキさんは、誰よりも責任感が強かった。

人手不足のシフトを穴埋めし、後輩の相談に夜遅くまで付き合い、終わらない委員会の仕事を休日に家でこなしていた。

みんなが彼女の優しさと有能さに頼り続けた結果、あの底なしに見えたエネルギーが、とうとう空っぽになってしまったのだ。

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急性期病棟で燃え尽きる先輩を見て、自分の未来が怖くなった

マキさんが最後に、

「お疲れ様でした!」

と花束を抱えて去っていった日の夜、私は自分のアパートのベッドで、果てしない絶望感に襲われていた。

「あのマキさんですら、潰れて辞めていく環境なんだ……」

頭の中で、その事実が何度も何度も繰り返される。

マキさんは、私よりも遥かに知識があって、メンタルも強くて、看護の仕事に熱意を持っていた。

そんな素敵なプロフェッショナルでさえ、心が限界に達して辞めることになった。

それが、この急性期病棟で起きている現実なのだ。

じゃあ、すぐに胃をキリキリさせている私は、この先どうなるんだろう。

このままこの病棟にしがみつき続けて、4年後、10年後を迎えたとき。

私はマキさん以上にボロボロになって、燃え尽きているんじゃないだろうか。

目指すべき北極星を見失ってしまったかのように、私の未来の視界は、一瞬で真っ暗な霧に包まれてしまった。

「私、このままここにいたら、いつか本当に心が死んじゃうかもしれない」

ハサミでパツンと切られたみたいに、私の心の中で、この病院への未練のようなものが完全に消えた瞬間だった。

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「無理しすぎちゃダメ」先輩が最後に残してくれた言葉

でも、マキさんが去り際に、私のロッカーのポケットにそっと忍ばせてくれた小さなメッセージカードには、彼女の温かい手書きの文字で、こう書かれていた。

『あんこちゃん、今までたくさん助けてくれてありがとう。あんこちゃんは優しくて本当に良い看護師だからこそ、マキさんみたいに無理しすぎちゃダメだよ。自分の人生を、一番大切にしてね』

カードを抱きしめながら、私は夜の部屋で静かに涙を流した。

マキさんは、自分の経験を通して、私に、

「これ以上無理を続けないで」

という大切なメッセージを残してくれたのかもしれない。

あんなに大好きで尊敬していた先輩が辞めてしまったことは、ものすごく寂しかった。

でも、その言葉の中に私は、

「自分の人生を自分で守る」

という、小さな、だけど消えない覚悟の光を見つけることができた。

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燃え尽きる前に、自分が笑顔で続けられる職場を探したい

30歳。

完璧な看護師マシーンになる必要なんてない。

誰かに頼られるために、自分をすり減らし続ける必要もない。

マキさんが教えてくれた通り、私は私の心と身体をちゃんと守りながら、笑顔で続けられる「私らしい看護」の場所を探したい。

患者さんと向き合えて。

無理な働き方をしなくてよくて。

自分の時間も大切にできる。

そんな職場を、今度は本気で探してみよう。

ロッカーから持ち帰ったマキさんのカードを、私は手帳の最初の一ページに、お守りのようにそっと挟み込んだ。

(episode17へ続く)

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