頼られすぎる中堅看護師。「仕事を押し付けられる」と感じた瞬間

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看護師あんこ日記 episode10

「あんこさんなら安心」頼られる嬉しさが、だんだん重荷になってきた

「あ、あんこさん! 今日の日勤、A個室の受け持ちをお願いしてもいいですか?」

朝の申し送り前、リーダー看護師のサエさんが、拝むようなポーズで私にすり寄ってきた。

A個室。

その名前を聞いた瞬間、私の脳内には「警戒警報」がけたたましく鳴り響く。

そこに入院しているのは、超偏屈で有名な大御所ドクターのお父様。些細なことで看護師にキレ、お気に召さないとすぐに病院幹部へクレームを入れるという、今病棟で最も恐れられている「超ウルトラVIP(かつ超難敵)」な患者さんだった。

「えっ、A個室ですか? 私、昨日も担当でしたけど……」

「ごめんね! でも、1年目のみのりちゃんじゃ泣かされちゃうし、他のスタッフだとドクターへの報告が上手くいかなくて。あんこさんなら安心だから! ね?」

「あんこさんなら安心だから」。

それは、私のこれまでの頑張りを認めてくれる、とっても甘くて心地よい響き。

……のはずなのに、最近の私には、その言葉が強力な「呪いの呪文」にしか聞こえなくなっていた。

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仕事ができる看護師ほど、重い業務が集中する?

「はい、分かりました。お任せください!」

結局、いつものように満面の営業用スマイルで引き受けてしまう私。

悲しいかな、8年間で培われた「頼まれたら断れない優等生マインド」が、ここでも綺麗に発動してしまった。

案の定、一日の業務は過酷を極めた。

気難しいA個室の患者さんの機嫌をとりつつ、神経を使う細かい点滴の管理。さらに、気まぐれにやってきては理不尽な指示を出すドクターの機嫌をうかがい、先回りして資料を準備する。

それだけではない。

「あんこさん、この重症の患者さんの点滴ライン、一緒に確認してもらえます?」

「あんこさん、ちょっと後輩の急変対応のフォロー入って!」

病棟のあちこちから、私の名前を呼ぶ声がする。

仕事ができるようになり、周囲の状況が見えるようになったからこそ、厄介なトラブルや、誰もが嫌がる重症患者さんの担当、面倒なドクターの対応が、磁石のようにすべて私の元へと吸い寄せられていくのだ。

夕方、怒涛の業務を終えてナースステーションに戻ると、隣のデスクでは、私と同期――だけど仕事はちょっとのんびり派――のナースが、定時ちょうどに、

「お疲れ様でーす!」

と笑顔で帰宅していく姿があった。

彼女が今日受け持っていたのは、比較的状態の落ち着いた、手のかからない患者さんたちばかり。

一方、私はそこからさらに山のような残業の書類にまみれている。

そのコントラストを見つめながら、私は手にしたボールペンをベッドに投げ出したい衝動に駆られた。

「待って……彼女と私、基本給、1円も変わらないんだよね?」

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頑張るほど損?業務量と評価が釣り合わない中堅看護師の不満

頼りにされるのは、正直に言って嬉しい。

「あんこさんがいてくれて良かった」

とドクターや先輩に言われれば、自分のスキルが認められた気がして、誇らしい気持ちにだってなる。

でも、その「信頼」の対価が、ただの「業務の押し付け」と「終わらない残業」なのだとしたら、話は別だ。

仕事ができる人に、どんどん重い負担と責任が集中していく。

なのに、お給料もボーナスも、のんびり定時で帰るスタッフと完全に同じ。

これって、頑張れば頑張るほど損をする、恐怖の「できる人罰ゲーム」ではないだろうか。

新人の頃は、

「たくさんの経験ができてラッキー!」

「信頼されてる証拠!」

と前向きに捉えられていた。

でも、30歳になった今の私は、そこまでおめでたい脳内お花畑ではいられない。

「信頼」や「安心」という綺麗な言葉で、私の体力と精神力をタダで消費される。

いわば「やりがいの不法投棄」に、心が「もう限界だよ」とストライキを起こしかけていた。

責任の重さと、負担の量。

それに対する見返りが、あまりにも釣り合っていないのだ。

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頼まれた仕事を断れない。「いい人」でいることに疲れてきた

退勤後、疲れ果てた足で駅のホームを歩きながら、私は自分のこれまでの働き方を振り返っていた。

私はいつの間にか、「何でもできる都合のいい先輩」になりすぎていたのかもしれない。

期待に応えようと無理をして、限界を超えているのに笑顔で、

「大丈夫です!」

と言い続けてきた。

でも、組織の都合に合わせて自分をすり減らすだけの優等生は、もう卒業してもいい年齢だ。

「私のスキルと労力は、もっとちゃんと大切に扱われるべきだし、正当に評価されるべきだよね」

電車のシートに深く腰掛け、むくんだ足首をそっと回す。

30歳。

仕事ができるようになったことは素晴らしい資産だ。

だったら次は、その資産を「都合よく消費される場所」ではなく、「お互いに対等に尊重し合える場所」で使う方法を考えた方がいい。

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自分を守るために、仕事の「境界線」を引く

よし。

明日もしまた、

「あんこさんなら安心だから〜」

とサエさんが近づいてきたら、今度は、

「あ、今ちょっと手がいっぱいなので、他のスタッフと分担してください!」

って、可愛く、でもキッパリと言ってみよう。

頼られることと、何でも引き受けることは違う。

仕事ができることと、無理をし続けることも違う。

自分の価値を守るための境界線は、自分で引かなきゃいけないんだから。

(episode11へ続く)

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