コロナ禍を経験して変わった価値観。「仕事より自分の人生を大切にしたい」

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看護師あんこ日記 episode14

N95マスクを見て蘇った、コロナ禍の看護師生活

クローゼットの奥を整理していたら、当時の名残である、未使用のN95マスクと、これでもかと頑丈に作られたフェイスシールドの予備がいくつか転がり出てきた。

それを見つめた瞬間、私の脳裏に、あの息が詰まるような数年間の記憶がフラッシュバックする。

「本当に、よく生き残ったよね、私たち……」

思い返せば、あの時期の急性期病棟は、まさに文字どおりの「戦場」だった。

未知のウイルスへの恐怖。

ガサガサと音を立てる防護服(PPE)に身を包み、ゴーグルが自分の息で曇る中、汗だくになりながら患者さんのケアにあたった日々。

「もし自分が感染して、病棟でクラスターを起こしたらどうしよう」

「もし私がウイルスを家に持ち帰って、大切な家族にうつしてしまったら……」

毎朝、出勤前に体温計の数字を見るだけで心臓がバクバクと脈打ち、張り詰めた緊張感で生きた心地がしなかった。

思い出すだけでも、当時の自分のメンタルの強さにノーベル平和賞をあげたいくらいだ。

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「医療従事者ありがとう」の裏で感じた偏見と孤独

当時、世間からは「医療従事者の皆さん、ありがとう!」と温かい拍手や応援のメッセージをたくさんいただいた。

それは本当に嬉しかったし、ボロボロになりながら働く私たちの、確かな心の支えになっていた。

でもその一方で、ニュースの綺麗事だけでは片付けられない「リアルな現実」も、私たちの心をチクチクと刺し続けていた。

「あんこ、しばらく実家には帰ってこないでね。近所の目がちょっとね……」

実家の母から申し訳なさそうに電話で言われたとき、胸の奥がツンと痛んだ。

母を責める気なんてさらさらない。

でも、最前線で命を守るために働いているはずの自分が、まるで「バイ菌」か何かのように扱われているような気がして、誰もいないアパートの部屋で、1人寂しくレトルトのカレーを食べた夜のことは今でも忘れない。

他にも、看護師仲間の中には、子供の保育園への登園を控えるよう求められたり、日常生活の中で距離を置かれた経験をした人もいた。

感謝される一方で、同時に向けられる、見えない偏見の目。

あの歪んだ空気感の中で、私たちは自分の心と身体を文字どおり「削りながら」働き続けていたのだ。

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コロナ禍が落ち着いたあとに残った、看護師としての疲れと空白

そして今。

あの激動の時期が落ち着き、病棟にも日常が戻ってきた。

でも、嵐が去ってふと立ち止まったとき、私の心には、言葉にできないほど巨大で、ぽっかりとした「空白」が残されていた。

「私、あんなに命を削ってまで、この場所で働き続ける意味って、本当にあるのかな……」

夜勤の巡回中、静まり返った廊下を懐中電灯の光で照らしながら、そんな疑問が頭の中をぐるぐると回り始める。

あの過酷な日々を乗り越えられたのは、

「今が非常事態だから」

「私が頑張らなきゃいけないから」

という、半ばトランス状態のような使命感があったからだ。

でも、その張り詰めた糸がフッと緩んだ今、自分の足元を見つめ直してみると、そこには疲れ果て、すっかり擦り減ってしまった「30歳の私」がポツンと立っていた。

あのとき、もし自分が倒れていたとしても、病院の業務そのものは誰かが引き継ぎ、回り続けていただろう。

でも、私の人生や健康を代わりに生きてくれる人はいない。

自分を守れるのは、最後は自分自身なのだ。

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コロナ禍で変わった「看護師だから我慢して当然」という価値観

コロナ禍は、私にとって本当に辛い経験だった。

でも同時に、「人生で一番大切なものは何か」を考える、決定的なターニングポイントにもなった。

それまでの私は、

「看護師なんだから、これくらい我慢して当然」

「仕事が一番大切」

と思い込んで生きてきた。

でも、命の危機をすぐ身近に感じたからこそ、自分の人生の時間は有限で、ものすごく貴重なものなんだと、心の底から気づかされたのだ。

「自分の健康を犠牲にしてまで、夜勤をやり続ける必要はある?」

「大切な人たちと会う時間を削ってまで、この病棟に縛られる意味はある?」

答えは、もうハッキリと出ている。

NOだ。

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「仕事のため」ではなく「自分の人生のため」に看護師として働きたい

私は看護師という仕事が好きだし、誇りも持っている。

でも、これからは「病院のため」に命を削るのではなく、「自分自身が幸せに生きるため」に、その資格を使いたい。

クローゼットの奥から出てきた防護シールドの予備を手に取り、私はしばらく眺めた。

あの激動の時代を生き抜いた私なら、これからどんな新しい環境に飛び込んでも、きっとやっていける。

30歳。

世界が変わったように、私も、自分の価値観に合わせて働き方を変えていい。

まずは今夜、当時の自分を労うために、ちょっといい入浴剤を入れてお風呂に長めに浸かることにした。

そしてこれからは、「どこで働くか」だけではなく、

「私はどんな人生を送りたいのか」

から、仕事を選んでいこう。

(episode15へ続く)

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