看護師あんこ日記 episode7
夜勤10回こなしたのに、給与明細を見て言葉を失った
「今月も生きてた。本当にお疲れ、私……!」
月末のルーティン。夜勤明けで少しハイになったテンションのまま、私はスマホでWeb給与明細のボタンをタップした。
先月も今月も、自分でも引くほど働いた。
スタッフの突然の体調不良によるシフト変更が重なり、通常月8回の夜勤が、2カ月連続でなんと月10回。鳴り響くアラートの嵐をかいくぐり、文字どおり命を削って病棟を走り回った。
さらに、業務後の業務とも言える「看護研究の資料作り」や「感染対策委員会の定例会」、「院内勉強会」の数々。
「これだけ頑張ったんだから、今月の手取りはきっとものすごいことになっているはず……!」
そんな期待に胸を膨らませ、画面に表示された総合計の数字を見つめる。
「…………あれ?」
私は一度画面を閉じ、もう一度ログインし直した。
目が疲れているのかもしれない。何せ夜勤明けだ。
しかし、画面にクッキリと表示されている数字は、1の位まで1円の狂いもなくさっきと同じだった。
「……うそ、これだけ?」
私の口から、乾いた笑いとともに、ポツリとそんな呟きが漏れた。
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看護師の基本給が低い。頼りになるのは「夜勤手当」
画面をスクロールして、明細の内訳を穴が空くほど見つめる。
まず、愕然とするのが「基本給」の低さだ。
8年目。
もう中堅で、プリセプターもやって、リーダー業務もこなしている。
それなのに、基本給は新人の頃からビックリするほど上がっていない。毎年微増。カメの歩みのほうがまだ早いかもしれない。
じゃあ、なぜ毎月そこそこの生活ができているかというと、すべては「夜勤手当」というドーピングのおかげなのだ。
【夜勤手当(10回分):〇〇,〇〇〇円】
この数字が乗っかることで、ようやく「一般的な会社員の平均」くらいの見栄えになる。
つまり、私たちの給料は、人生の大切な時間を使い、寿命を前借りして夜中に起きて働くことで、ギリギリ成り立っているのだ。
「待って、毎月委員会で5回は残業するし、勉強会の資料も家で夜な夜な作ったはずなんだけど……」
恐る恐る「超過勤務手当(残業代)」の欄を見る。
そこに書かれていたのは、私が実際に残業した時間の、半分にも満たない金額だった。
病棟の暗黙の了解である「残業申請は1回30分まで」とか「勉強会や委員会は自己研鑽。残業申請は不可」という理不尽なルール。
それが、この悲しい数字の正体だった。
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命を預かる責任と、看護師の給料が釣り合っていない
ベッドの上にごろりと寝転がり、スマホを天井に向けて掲げる。
看護師の仕事は、いつだってギリギリの精神状態で回っている。
一歩間違えれば、患者さんの命に関わる薬の投与。
急変時の瞬時の判断。
人工呼吸器や点滴ポンプのシビアな管理。
ドクターからの指示に少しでも違和感があれば、それを見逃さずに確認する最後の砦。
これだけの重い責任と、常に張り詰めた緊張感、そしてボロボロになる体力。
これらすべてを差し出して、毎月口座に振り込まれるのがこの金額なのだと思うと、なんだか急に、頭の奥が冷えていくような感覚を覚えた。
「私の人生と命の値段って、もしかして安すぎない……?」
一般企業で働く大学の友人は、オフィスワークで、土日はしっかり休めて、残業代も1分単位で全額支給され、ボーナスもしっかり出る。
30歳になった彼女たちの給与の話を思い出すと、どうしても心がチクチクと痛む。
仕事のやりがいや、「患者さんのため」という綺麗な言葉だけで、いつまでこのギャップを埋め続けられるのだろう。
やりがいは、家賃を払ってくれない。
患者さんの笑顔は、私の将来の貯金額を増やしてはくれない。
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夜勤ができなくなったら収入は?看護師の給与体系に感じた不安
これまでは「看護師の給料なんてこんなもんでしょ」と諦めていた。
周りの先輩たちもみんな同じように愚痴を言いながら諦めていたから。
でも、30歳になった今、私は自分の人生と将来のマネープランを、もっと現実的に見つめなきゃいけない。
身体を壊して夜勤に入れなくなったら、一気に生活が困窮するような給与体系のままで、この先40代、50代をプロフェッショナルとして生きていくなんて、リスクが高すぎる。
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「もっと正当に評価される職場へ」転職を考える理由が一つ増えた
「私、もっと自分の労働価値を、正当に評価してくれる場所を探してもいいのかもしれない」
画面を閉じ、枕元にスマホを置く。
悲しい数字を見て落ち込んだけれど、不思議と胸の奥はスッキリとしていた。
諦めではなく、
「よし、次のステージへの準備をしよう」
という前向きなエネルギーが、静かに湧いてくるのを感じたからだ。
今月命を削って稼いだお給料。
その中から、今日はちょっと贅沢をして、デパ地下のめちゃくちゃ高いケーキを買って帰ろう。
病院が私を安く見積もるなら、せめて私自身だけは、自分の価値を最大限に労ってあげる。
(episode8へ続く)

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