看護師あんこ日記 episode2
4日ぶりの休日。「明日は絶対にアラームをかけない」
神様、仏様、シフトを作ってくれた師長様。
本当にありがとうございます。待ちに待った、待ちくたびれた、4日ぶりの「完全オフ」がやってきた。
昨日の日勤終わりは、まるで足に重りをつけられたゾンビ。歩く足が床に張り付いていた。でも、家に帰り着いてお風呂に飛び込み、お気に入りのラベンダーの入浴剤をドバドバと投入したあたりから、私の魂は現世へと戻ってきた。
「明日は絶対にアラームをかけない」
「お昼の12時まで泥のように眠る。途中で目が覚めても、絶対に布団から出ない」
そう固く心に誓い、スマホのアラーム設定をすべて「オフ」にした。
画面に並ぶ「06:00」「06:15」「06:30」の文字のチェックが外れていく瞬間は、アフィリエイトで初めて報酬が出たくらい(まだ出てないけど)の、えも言われぬ全能感に包まれる。
シングルベッドにダイブし、私は幸せな意識の闇へと落ちていった。
はず、だった。
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アラームなしなのに朝5時。看護師の体内時計は休日も正確だった
「……ッ!?」
何か大きな音がしたわけでもないのに、脳の奥のスイッチが弾かれたように、パチッと目が開いた。
視界に飛び込んできたのは、遮光カーテンの隙間から漏れる、まだ薄暗い朝の光。
嫌な予感がして、枕元のスマホを恐る恐る手にとり、画面をタップする。
【 05:01 】
ご、ごじ、いちぷん……?
「嘘でしょ……まだ5時じゃん……!」
思わず頭から布団を被り、ぎゅっと目を閉じてみる。羊を数えてみる。楽しかった学生時代の思い出を回想してみる。
しかし、一度完全に覚醒してしまったアラサー看護師の脳細胞は、冷酷なまでに「朝ですよ!」と大合唱を続けている。
悲しいかな、丸8年間の過酷なシフト勤務によって鍛え上げられた私の「体内時計」は、アラームなんていう現代のテクノロジーを軽々と凌駕するほど、正確無比に仕上がってしまっていたのだ。
早番の時はあんなに起きるのが辛いのに、なぜ休日の朝だけこんなにキレキレの目覚めを提供してくるのか。
人間の身体の神秘というより、ただの嫌がらせである。
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休日なのに聞こえる「ナースコールの幻聴」
せめて布団の中でゴロゴロしていようと寝返りを打った瞬間、シーンとした部屋の静寂の中で、耳の奥から「あの音」が響いた。
ピンポーン、パーンポーン♪
「あ、すみませーん、点滴が終わりそうなんですけどー」
ハッとして飛び起きる。周りを見回す。
そこは白いカーテンで仕切られた4人部屋でもなければ、ナースコールが鳴り響くナースステーションでもない。
見慣れた自分の部屋の、ちょっと散らかったフローリングだ。
「……あぁ、幻聴か」
現役看護師なら、きっと3回は深く頷いてくれると思う。
そう、私たちはプライベートの時間ですら、「ナースコールの幻聴」という呪いから完全に解き放たれることはない。
重症患者さんのモニターの警告音、ドクターを呼び出すPHSの着信音、そして患者さんからの容赦ない呼び出し音。
目をつぶると、昨日やり残した業務や、「あの検温、ちゃんとカルテに記載したっけ……?」という細かい不安が、お湯に溶かす前の粉末スープのようにドロドロと頭の中に広がっていく。
せっかくの休日なのに、心の中に「小さな看護師あんこ」がずっと常駐していて、頭の片隅でせっせと残業を続けているような感覚。
「はぁ……」
静かな部屋に、私の重いため息がぽつりと落ちた。
身体は布団の上にあるのに、心が全く休まっていない。
この「常にアラートを張っている状態」って、もしかして思った以上にメンタルを削られているんじゃないだろうか。
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看護師の休日。朝5時半のコンビニで見つけた小さな贅沢
考えても埒があかないので、私は思い切って布団を蹴り飛ばした。
寝られないなら、いっそのこと活動してやる。
ボサボサの髪をクリップで雑にまとめ、大きめのスウェットを羽織って、財布だけを持って近くのコンビニへ向かう。
午前5時半の空気は、ひんやりとしていて驚くほど澄んでいた。いつも走って駆け抜ける駅前も、まだ車通りが少なくて静かだ。
コンビニのスイーツコーナーで、普段なら「ちょっと高いな」とスルーする、300円超えのピスタチオのご褒美パフェをカゴに入れる。
ついでに、挽きたての温かいカフェラテも。
家に帰り、ベランダの窓を開けて、朝一番の風を浴びながらパフェを口に運ぶ。
濃厚な甘さが、昨日までの夜勤と日勤の連続でカラカラに乾いていた心に、じんわりと染み渡っていく。
「うん、美味しい。生きてるって感じがする」
早起きしてしまったお陰で、休日の時間はたっぷりある。
これからお気に入りの映画を見てもいいし、ダラダラとSNSのタイムラインを眺めてもいい。
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「もう少し普通の生活を」30歳の看護師が感じ始めた違和感
でも、パフェを味わいながら、私の頭の中にはやっぱり、さっきの「違和感」が残っていた。
アラームなしで5時に起きてしまう生活。
常に仕事のプレッシャーに追いかけられている毎日。
「私、もう少し、普通の生活を送ってもいい年齢なんじゃないかなぁ」
30歳。
そろそろ自分の心と身体の「本当の悲鳴」に、ちゃんと耳を傾けてあげてもいいのかもしれない。
カフェラテの白い湯気を見つめながら、私はまだ見ぬ「ゆったりとした朝」の暮らしに、小さな憧れを抱き始めていた。
(episode3へ続く)

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