看護師あんこ日記 episode17
一般企業のリモートワークを見て、働き方の違いに驚いた
「あ、ごめん! ちょっと今、会社のチャットに1本返信しちゃうね!」
金曜日の午後1時。
有給をとって平日の昼間からちょっとオシャレなカフェに繰り出した私は、目の前に座る大学時代の友人・カナの言葉に、思わずケーキを口に運ぶフォークを止めた。
カナは大学卒業後、都内のIT企業に就職した、いわゆる「一般企業で働くOL」だ。
彼女は手際よくスマホを操作し、フリック入力でササッとメッセージを送ると、
「お待たせ! よし、これで今日の分のタスクはだいたい終わり!」
と、カフェラテを美味しそうにすすった。
「え、待ってカナ。今日って金曜日だよね? 仕事休みだったっけ?」
「ううん、普通に勤務日だよ! でも、うちは完全リモートワークだしフレックス制だからさ。午前中に家で集中して仕事終わらせて、午後はコアタイム外してカフェで作業しようと思って、PC持ってきちゃった」
リモートワーク。
フレックス。
コアタイム。
私の頭の中のミニあんこが、
「ちょっと待って、そのオシャレな呪文は何ですかーーー!?」
とパニックを起こして大騒ぎを始めた。
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病棟勤務とは別世界。フレックス・在宅勤務という働き方
私の働く一般病院の病棟といえば、令和のこの時代にあっても超がつくほどのアナログ&拘束社会だ。
出勤したらまずはタイムカードを押し、白衣に着替え、スマホなどの私物はロッカーへ。
勤務時間中に私用の連絡を確認することは難しいし、喉が渇いても、タイミングを見ながら水分補給するのが精いっぱい。
もちろん、病棟を離れれば、
「あんこさん、どこ行った?」
と探される。
そんな「100%現場勤務」の環境で8年間生きてきた私にとって、カナの口から語られる働き方は、もはや異世界転生モノの小説を読んでいるくらい現実味がなかった。
「え、じゃあ、平日の昼間にこうやってカフェで仕事しても怒られないの?」
「全然! 成果物さえちゃんと出して、連絡がつながれば場所はどこでも自由だよ。夏はクーラーの効いた部屋でパジャマのまま仕事できるし、通勤ラッシュの満員電車に乗らなくていいのが本当に最高なんだよね」
パジャマのまま、仕事。
通勤ラッシュ、なし。
窓際の席から差し込む木漏れ日を浴びながら、ノートPCを開いて働くカナの姿は、なんだかものすごくキラキラして見えた。
一方の私は、昨日の夜勤明けの疲れが抜けきらず、ファンデーションのノリの悪さを必死に隠してきたアラサーナースである。
この圧倒的な「世界線の違い」に、脳内がキリキリと音を立ててバグりそうだった。
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「看護師だから不規則勤務は当たり前」という思い込みに気づいた
「看護師の仕事って、本当にすごいし尊敬するよ」
と、カナはまっすぐな目で言ってくれた。
「でも、あんこ、いっつも夜勤でボロボロだし、髪振り乱して働いてるじゃん? もう少し自分の体を大切にできる働き方にシフトしてもいいんじゃない?」
カナの優しい言葉が、私の胸の奥にストレートに突き刺さる。
新人の頃から、私は、
「看護師なんだから、現場に縛られて当然」
「カレンダー通りに休めないのは当たり前」
と思い込んで生きてきた。
でも、それはただ、私が「病院」という箱の中の常識しか知らなかったからなのかもしれない。
一歩外に目を向ければ、もっと柔軟な勤務時間や、個人のライフスタイルを尊重した働き方を選んでいる人たちがいる。
「私、勝手に『これしか道がない』って、自分の世界を狭めてたのかな……」
カフェの窓の外を眺めながら、自分の中にあった古い価値観が、パラパラと音を立てて崩れていくのを感じていた。
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看護師でも日勤のみ・土日祝休みの仕事は探せる
もちろん、患者さんと直接向き合う臨床看護の多くは、現場にいることが前提だ。
だから、カナとまったく同じような働き方ができるわけではない。
でも、
「今の病棟勤務だけが、看護師として働く唯一の道ではない」
と気づいただけで、私の心の風通しは一気に良くなった。
病院の病棟以外にも、日勤中心の仕事や、土日祝休みを狙いやすい働き方はある。
産業看護師。
治験コーディネーター(CRC)。
クリニック。
訪問看護。
ほかにも、看護師として身につけてきた経験を活かせる場所は、探せばまだまだあるはずだ。
「よし、私もちょっと視野を広げてみよう!」
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「産業看護師」「CRC」「日勤のみ」で求人検索を始めた
カナと別れた帰り道。
私は電車のシートに腰掛けると、すぐにスマホを開いた。
これまでは、
「看護師 転職」
としか入れていなかった検索窓。
そこへ今度は、
「看護師 産業看護師」
「看護師 治験 CRC」
「看護師 日勤のみ 土日祝休み」
と、一つずつ入力してみる。
画面には、これまで知らなかった働き方や求人情報が次々と並んだ。
胸が、トクンと小さく高鳴る。
30歳。
世間の「当たり前」に縛られるのは、もうおしまい。
病棟勤務を続けるのか。
別の医療現場へ行くのか。
企業で看護師経験を活かすのか。
今まで見えていなかった選択肢まで含めて、自分で選んでいい。
カナのように、平日のカフェタイムを笑顔で楽しめるような、私にとっての「最高の働き方」を、これから全力で見つけにいこう。
そう心に誓いながら、私は電車の窓に映る、少し前を向いた自分の顔を見つめていた。
(episode18へ続く)

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