仕事に行こうとしたら涙が止まらない。看護師8年目で気づいた「限界のサイン」

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看護師あんこ日記 episode21

仕事に行こうとしたのに、玄関で足が動かなくなった

ピピピッ、ピピピッ。

朝の5時45分。スマホのアラームがいつも通りに鳴り響く。

今日のシフトは日勤。

昨日の遅番の疲れが頭の奥にズシリと残っているけれど、行かなきゃいけない。

人手不足の病棟で、8年目の私が穴を開けるわけにはいかないからだ。

重い体をなんとか起こし、ロボットのような動きで洗面台へ向かう。

歯を磨き、髪をきっちりまとめ、お気に入りのプチプラ化粧水で肌を整える。

鏡に映る自分の顔に、

「よし、今日も1日頑張ろう!」

と、いつも通りに声をかけた。

ここまでは完璧だった。

いつもと変わらない、普通の仕事前のルーティン。

トーストを詰め込み、バッグを持って、玄関に向かう。

カギを手に取り、スニーカーに足を入れようとした、その瞬間だった。

「……あれ?」

なぜか、足が動かない。

スニーカーに足を入れるだけの、その数センチの動作がどうしてもできなくなってしまったのだ。

まるで玄関の床に足がアロンアルファでガチガチに固定されてしまったかのように、1ミリも前に進めない。

「何やってるの、私。遅刻しちゃうじゃん」

焦って自分にツッコミを入れ、無理やり足を動かそうとした。

でも、身体が完全に私の命令を拒否している。

その時、視界が急にじわっと歪んだ。

ポト、ポトポトッ。

冷たいフローリングの床に、大きな水滴がいくつも落ちていく。

それが自分の目から溢れ出た涙だと気づくまでに、少し時間がかかった。

/

理由もないのに涙が止まらない。「もう無理」が初めて聞こえた

悲しいことがあったわけじゃない。

誰かに直前でひどい言葉を言われたわけでもない。

ただ、玄関で靴を履こうとしただけ。

それなのに、涙が止めどなく溢れて、止まらなくなってしまった。

声をあげるでもなく、ただポロポロと涙がこぼれ落ちる。

私はバッグを床に落とし、そのまま玄関の段差に膝を抱えて座り込んでしまった。

「あ、私、もう無理なんだ」

その時、頭の中の雑音がすっと消えて、驚くほど冷静な本音が胸の奥からぽつりと湧き上がってきた。

これまで、どんなに激務でも、

「看護師の仕事はこういうものだから」

と、自分を納得させてきた。

夜勤で肌がボロボロになっても、高い美容液でごまかした。

上と下の板挟みで胃がキリキリしても、市販の胃薬を相棒にして笑い飛ばした。

終わらないサービス残業や持ち帰り残業も、「自己研鑽」という言葉に縛られて必死に耐えてきた。

燃え尽きて辞めていった大好きな先輩・マキさんの姿を見たとき、

「マキさんほど素敵な人でも潰れちゃうんだ」

と絶望した。

でも実は、あの頃から私自身もずっと、限界に近づいていたのかもしれない。

周囲の期待に応えようと、

「頼れる8年目のあんこさん」

の仮面を完璧にかぶり続けてきた。

でも、その中身はもう、とっくにカラカラになっていた。

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「燃え尽きかもしれない」看護師として無理を続けてきた8年間

夜勤。

人手不足。

後輩指導。

師長と若手の板挟み。

医師との人間関係。

サービス残業。

持ち帰り仕事。

一つひとつなら、なんとか耐えられたのかもしれない。

でも、それが何年も積み重なれば、心と身体に何も起きないほうが不思議なのかもしれない。

私はこれまで、

「まだ働けているから大丈夫」

「休まず出勤できているから大丈夫」

と思っていた。

でも、玄関から一歩も出られなくなった朝、初めて気づいた。

働けていることと、心に余裕があることは、まったく別なんだ。

身体が、

「これ以上は無理だよ」

と、私より先にブレーキを踏んでくれたような気がした。

/

8年間で初めて「今日は休ませてください」と電話した

時計の針は6時半を回ろうとしていた。

申し送り開始まであと1時間ちょっと。

私は震える手でスマホを拾い上げ、病棟の番号をタップした。

これまでの8年間、体調不良で急に休んだことなんて片手で数えるほどしかない。

ものすごい罪悪感が胸を締め付ける。

『はい、5階病棟です』

電話に出たのは、今日のリーダーの先輩だった。

「お疲れ様です、あんこです……。すみません、今朝からどうしても体調が優れなくて、動けそうになくて……。今日の日勤、お休みをいただいてもよろしいでしょうか」

声が震えないように、必死に涙をこらえて言葉を絞り出す。

『えっ、あんこちゃんが? 珍しいね。分かった、師長には私から伝えておくから、今日は無理しないでゆっくり休みなよ。お大事にね』

先輩の優しい声を聞いた瞬間、こらえていた涙がまたどっと溢れた。

電話を切り、スマホを胸に抱きしめながら、私は玄関の床で声を上げて泣いた。

職場に迷惑をかけてしまった申し訳なさ。

でも、それ以上に、

「今日はもう、あの病棟に行かなくていいんだ」

という、信じられないほど大きな安心感が私を包み込んでいた。

/

看護師として限界を感じた日が、新しい働き方へのスタートになった

その日は、1日中ベッドの中で泥のように眠った。

お昼過ぎにふと目が覚めたとき、部屋の中に差し込む穏やかな太陽の光を見つめながら、私は自分の胸にそっと手を当てた。

これまでは、心がどんなに悲鳴を上げていても、気づかないフリをして、

「もっと頑張らなきゃ」

と自分を追い立て続けてきた。

でも、今日初めて、自分の心の声を正面から受け止めることができた。

「よく頑張ったね、私。もう、十分だよ」

30歳。

身体と心が教えてくれたこの限界を、私は「挫折」だけで終わらせたくない。

これまでの働き方にピリオドを打って、自分をもっと大切にできる人生へ進むためのスタートラインにしたい。

急性期病棟のレールから降りることは、少し怖い。

でも、自分を壊してまで走り続ける必要はない。

夕方、少し落ち着いた私は、お気に入りの温かいハーブティーを淹れた。

明日からのことは、また明日考えればいい。

まずは、限界まで走ってきた自分の心と身体を、ゆっくり休ませよう。

そして次は、

「無理を続けられる職場」ではなく、「無理をしなくても続けられる職場」

を探そう。

私の本当の幸せを見つけるための旅は、この静かな部屋から、もう始まっているんだから。

(episode22へ続く)

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