休日まで委員会の持ち帰り残業。看護師の「仕事と私生活の境界線」を考えた日

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看護師あんこ日記 episode20

2週間ぶりの休日なのに、待っていたのは病院のExcel

ピピッ、ピピッ、ピピッ。

土曜日の午前10時。アラームの音で目が覚めた私は、ベッドの中で思い切り背伸びをした。

今日は待ちに待った、2週間ぶりの完全な公休!

お天気は快晴。絶好のお出かけ日和だ。

「よし! 今日はちょっと遠出して、あのSNSで話題のベーカリーカフェでおいしいクロワッサンを食べるんだ!」

そう意気込んでベッドから飛び起き、お気に入りのワンピースに着替えようとした、その時。

机の上にポツンと置かれた、無機質な黒いバッグが私の視界に入った。

そのバッグの中身を思い出した瞬間、私の頭の中に冷たいバケツの水がバシャーーーッと浴びせられたような衝撃が走る。

「……あ。忘れてた。いや、忘れたフリをしてた……」

おそるおそるバッグのチャックを開けると、そこから現れたのは、病院から支給されているノートパソコン。

画面を開けば、表示されているのはオシャレなカフェのメニューなんかじゃない。

無骨なExcelの画面と、

『令和8年度 医療安全委員会・ヒヤリハット集計表』

という、あまりにも現実的で可愛げのない文字だった。

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看護師の委員会活動。「残業するな、でも資料は出して」の矛盾

看護師の仕事は、ベッドサイドでのケアだけではない。

病棟によっては「委員会活動」や「係活動」といった、病棟運営に関わる役割も割り振られる。

8年目の私が今年仰せつかったのは、数ある委員会の中でもトップクラスにヘビーな「医療安全委員会」のコアメンバーだ。

毎月、病棟で起きたインシデント(ヒヤリハット)の報告書を回収。

原因を分析。

対策をまとめた資料を作成。

そして、全体の会議で発表する。

これがね、本当に笑えるくらい膨大な作業量なのだ。

もちろん、日勤の勤務時間中にパソコンに向かってカタカタと資料を作る余裕なんて、1秒たりとも存在しない。

じゃあ、業務後に残ってやればいいかというと、今の病院のスタンスはこうだ。

「残業は原則禁止だから、定時になったら早く帰ってね」

「あ、でも来週の委員会資料、ちゃんとデータまとめておいてね」

残業はするな。

でも資料は期限までに出せ。

この、あまりにも矛盾に満ちたダブルスタンダード。

一言で言って、完全に「無理ゲー」である。

先輩たちも、業務後に退勤処理をしてから作業を続けたり、ノートPCを家に持ち帰ったりしていた。

私もいつの間にか、その働き方を「しょうがない」と受け入れるようになっていた。

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看護師の休日が「持ち帰り残業」で消えていく

せっかくの休日。

オシャレなカフェに行く気力は一瞬で消え去り、私は部屋着のスウェットのまま、自宅のデスクでパソコンに向かった。

お気に入りのマグカップにコーヒーを注ぎ、BGMに大好きな音楽を流してみる。

けれど、画面の中で踊っているのは、

「内服薬の確認不足」

「点滴の速度間違い」

といった、まったく心が休まらない言葉のオンパレードだ。

「私、なんでプライベートの貴重な時間を使って、自分の家の電気代とWi-Fiまで使って、病院の事務作業やってるんだろう……」

カタカタとキーボードを叩きながら、胸の奥からドス黒い理不尽さがジワジワと湧き上がってくる。

一般企業で働く友達にこの話をすると、

「え!? 休日に会社の仕事してるの?」

と、本気で驚かれる。

でも、私の職場では、

「病院のために貢献して当たり前」

「係の仕事なんだから自分で終わらせるもの」

という空気の中で、いつの間にか休日の作業まで当たり前になっていた。

気がつけば、時計の針は午後3時を回っていた。

一番リフレッシュできるはずだった土曜日の貴重な半日が、仕事によって跡形もなく消えていた。

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仕事とプライベートの境界線がなくなる働き方に限界

肩と首の強烈な凝りを感じながら、パソコンをパタンと閉じる。

窓の外を見ると、あんなに綺麗に晴れていた青空が、いつの間にか夕焼けのオレンジ色に染まり始めていた。

「私の人生の時間は、病院のものじゃないのに」

30歳。

体力的にも精神的にも、仕事とプライベートの境界線がこれ以上ぼやけていく働き方は、もう限界だ。

20代の頃は、

「これも勉強のうち」

と自分を納得させていた。

でも今は、自分の「休日の価値」を、そんなに安く見積もりたくない。

仕事の時間は集中して働く。

でも、一歩仕事を離れたら、自分のために時間を使う。

そんな当たり前の境界線を、これからはちゃんと守りたい。

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「持ち帰り残業なし・残業少なめ」を次の職場選びの条件に

「もう、持ち帰り残業がある生活とは決別しよう」

私はノートPCを黒いバッグに押し込み、クローゼットの奥へとしまった。

そして、自分のスマホを開く。

転職サイトの条件指定欄に並んでいる文字を、一つずつ確認した。

「土日祝休み」

「残業少なめ」

「日勤のみ」

今までなら、給与や仕事内容ばかりを見ていたかもしれない。

でも、これからは違う。

仕事を家に持ち帰らなくていいこと。

休日を、本当に休日として過ごせること。

それも、私にとって大切な転職条件なのだ。

私の大切な30代の休日は、病院の資料を作るためじゃない。

好きな場所へ出かけたり。

友達と会ったり。

何もしないでゴロゴロしたり。

そんな、自分の人生を回復させるために使いたい。

やり残した自分のケアのために、私は少し高めの入浴剤を買いに、散歩がてらドラッグストアへ向かうことにした。

(episode21へ続く)

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